2011年8月12日金曜日

ミトロヒン文書

1992年4月、ワシリー・ミトロヒンという旧KGBの幹部が2000ページもの大量の機密文書の手書きの写しとともにイギリスに亡命した。

ミトロヒンは、1922年生まれ。1948~1984年にKGB海外部門(第1総局)の将校として勤務していたが、なかでも72~84年には第1総局の書庫の機密文書を整理し、新書庫に移す作業を指導していた。その際に多くの機密文書を書き写していたのである。

大量の資料は、イギリスのインテリジェンス学の権威であるクリストファー・アンドリュー・ケンブリッジ大学教授(現在はコーパス・クリスティ大学学長兼任)によって詳細に分析された。後に、99年にミトロヒン氏とアンドリュー教授の共著として『欧州と西側のKGB~ミトロヒン文書』が出版された。

ミトロヒン氏自身は2004年に死去したが、その後、残りのアジア、中東、中南米、アフリカでのKGBの工作についてまとめた続編『ミトロヒン文書Ⅱ』が2005年9月に出版された。

KGBの諜報活動は、プロパガンダ、公文書などの偽造工作等、幅広い。特に、偽情報の伝達/プロパガンダ、の手法は極めて高度であり秀逸だ。

第2次世界大戦後、冷戦時のソ連最大の敵は米国であり、プロパガンダの主体となる標的も当然米国となる。ソ連は、米国が掲げる自由民主主義思想からくるオープンな社会風潮を逆手に取り、メディアの規制が無い社会で、米国に不利となり得る情報を利用しながら、KGBの破壊工作の格好の場とした。

例えば、ディアスポラにより世界に拡散された「ユダヤ人が裏で世界を牛耳っている」というユダヤ人陰謀説を考察する。ミトロヒン文書が明らかにするように、ユダヤ人陰謀説は世界中に広がり、KGBのプロパガンダの中でも最も成功した1つでもある。

反イスラエル感情が強い中東において、米外交にとり不利な要素となり、米国とユダヤ人を連結させることによりて反米感情を高めた。また、「ユダヤ人の秘密結社であるフリーメーソンが世界を搾取している」という発想も、KGBの破壊工作の結果である。